大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1478号 判決 1980年1月30日
控訴人(附帯被控訴人、以下たんに控訴人という)
田村明
右訴訟代理人
鎌倉利行
外二名
被控訴人(附帯控訴人、以下たんに被控訴人という)
毛利新
右訴訟代理人
中島三郎
主文
一、本件控訴及び附帯控訴を、いずれも棄却する。
二、控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
<前略>
なお、控訴人は、被控訴人が利息制限法超過利息であることを知りながら支払つた悪意があるから、被控訴人に超過利息等不当利得返還請求権がない旨主張する。しかし、およそ民法の建前から考えると、債務が不存在であることを知りながら任意に債務の弁済として給付したときは民法七〇五条の適用があり、ただその弁済を合理的にする客観的事情がある場合には同条の適用がないところ、高利の禁止・経済的弱者である債務者の保護という利息制限法の趣旨から考えると、同法の制限超過利息を支払つた債務者には、特段の事情のない限り、超過利息を支払うべき債務の不存在を知つていてもなお弁済しなければならない客観的、合理的な事情があるものと解すべきである。もし、そう解さないと、経済的弱者の窮状を利用して制限超過利息で金銭を貸付けた者を保護することになる反面、高利であることを知りながらやむをえず任意に債務を弁済した債務者は、原則として高利であればあるほど制限超過利息の支払義務のないことを知りながら債務を弁済した債務者と判定されることになるおそれがあり、ひいては制限超過利息の不当利得返還を認める法の趣旨(最高裁判所大法廷昭和四三年一一月一三日判決・民集二二巻一二号二五二六頁、同昭和四四年一一月二五日判決・民集二三巻一一号二一三七頁参照)を没却することになるからである。したがつて、控訴人の右主張は失当であつて採用できない。<以下、省略>
(下出義明 村上博巳 吉川義春)